よんでみる{ magazine Vol.23 }
Update on 2017.04.21

老舗みそ屋の娘がつなげる山梨の発酵仲間

【特集レポート】五味醤油 五味洋子さん(山梨県甲府市)

創業150年という歴史を持つ老舗みそ屋に、軽やかな風を吹かせる看板娘がいる。人とのつながりを大切にしながら、みその魅力を伝える五味洋子さん。その活動とは?




みその敷居を下げながら、その魅力を伝えていきたい


昨今の発酵ブームにおける火付け役のひとりといってもいいかもしれない。山梨県甲府市にある明治元年創業の老舗醸造屋「五味醤油」。その6代目の妹、五味洋子さんのことだ。社名には“醤油”と名がつくものの、現代の「五味醤油」がつくるのは、みそと麹。その魅力を伝えるべく、地域に愛されながら活動する洋子さんは、さながら看板娘というより、ご当地アイドルに近い存在だ。


東京の大学へ通い、東京の会社に就職。もともと家業を手伝うつもりはまったくなかったという洋子さんが、甲府の地にUターンしたのは2013年のことだ。家業を継いだ兄・ひとしさんから「人手が足りないから帰ってきて手伝ってほしい」と言われたのがきっかけだった。

「社会人5年目で、その先も東京にいるのがなんとなくイメージできなかった。ベンチャー企業で新商品をつくる部署にいたんですが、『新しいものをつくって消費者に飽きられないようにする』という風潮にも違和感を持ちはじめていて。本当にいいものならずっと愛されるだろうし、それを大事にすればいいのになって。それであらためて、1つの会社が100年以上続くってすごいことだなって実家のことを思い出したんです。そんな絶妙なタイミングで兄から声がかかって、ふたつ返事で『帰ります』って」

家業を継いだ洋子さんがまかされたのは、おもに「手前みそ教室」だった。かつては各家庭であたり前だった自家製みそづくりの文化を体験するワークショップだ。いまでこそ洋子さんあっての教室だが、最初は「自分に務まるだろうか」という不安もあったという。


「私、みそ屋っぽくないのに大丈夫かなって。引け目を感じていた時期もあったんですが、お客さんから『みそっておばあちゃんがつくるものだと思っていたけど、イメージが変わった。みそがかわいく思えるようになった』って言ってもらえて。自分だからできることもあるかもって思えたんです」


みそづくりの教室をコミュニティーの場へ


〝こうあるべき〞にとらわれるのではなく、自分らしくあること。

それからは、持ち前の明るさもあり、「手前みそ教室」がますます笑顔あふれる場に。口コミで評判が広まり、リピーターや紹介によって参加者も増加。年々、需要が高まったことから、昨年は「さらに敷居を下げたい」と、敷地内にみそと食のワークショップスペース「KANENTEかねんて」をオープン。カフェと間違えるお客さんも少なくないほど、モダンでおしゃれな空間は、従来の「みそ」のイメージとは一線を画すものだ。


「冬場はほぼ毎日教室があるんですが、毎回本当に楽しくて。お客さんは先生と呼んでくれるけど、私にとってはお友だちや仲間という感じ。そういう関係がすごく楽しいし、ありがたい。みそづくりって昔は親戚や近所の人が集まるコミュニティーの場でもあったんですけど、ここもそういう場になればうれしいと思っているんです」

五味醤油のユニークな広報活動の根幹となるのが、兄・仁さんと2人で始めたユニット「発酵兄妹」としてのプロジェクトだ。発酵やみその魅力をより広く伝えたいと食育的観点から結成し、これまでさまざまな活動を展開してきた。たとえば、3分でみそのつくり方がわかる「てまえみそのうた」をつくった。その歌に合わせてワークショップで踊ったり、絵本にしたり、ローカル放送局で「発酵兄妹のCOZYTALK」という冠のラジオ番組を持ったり……。と、ここに列挙しただけでも、その活躍ぶりはたんなるみそ屋の範疇にはおさまらないほどだ。


「文化を伝えるというとかたくるしく聞こえますが、愉快に楽しく伝えることを大切にしています。そのために、歌ったり踊ったり、五感に伝わるように」と洋子さん。

歌って踊る「発酵兄妹」は、子どもたちからの人気も高く、保育園や幼稚園でもみそづくりワークショップを多数開催。その子どもたちが「おいしかった!」と家族に伝えることで、親がワークショップに参加してくれるようになるなど、影響力は大きいという。


手前みそのつくり方


①前日に大豆を水に浸し、鍋で3〜4時間煮る。ボウルに麹を入れて、その上に塩を振りかけ、手で麹と塩を混ぜておく。
②大きいボウルに煮大豆をあげ、ポテトマッシャーなどで大豆をつぶす。ペースト状になったら塩麹を混ぜ、団子状にする。
③保存容器に団子を投げ入れる。平らに慣らし、表面に塩をまんべんなくまぶす。重しと蓋をして半年置けば完成。




山梨の発酵仲間たち


マル神農園 古屋聡さん
大菩薩嶺だいぼさつれいという山の中腹、標高約850mのところにある甲州市神金地区。ここで無農薬・無化学肥料の野菜を生産販売しているのが、マル神農園の古屋聡さんだ。古屋さんと洋子さんは、洋子さんの兄の仁さんを通じて出会い、いまでは「野菜を届けたり、麹をもらったりする仲」だという。ブツブツ交換が日常的に行われる、気持ちのいい友人関係だ。

発酵酒場かえるのより道 桑本尚也さん
洋子さんと同時期にUターンした桑本さん。彼が2015年にオープンしたお店のコンセプトは、ずばり「発酵」。五味醤油のみそをはじめ、麹でつくった甘酒、酒麹やひしおなど、山梨県産の発酵調味料も多く活用しながら、個性的な発酵料理を提供するお店だ。

シンガーソングライター 森ゆにさん
「みそ、みそみそ、てまえみそ♪」。一度聴いたらメロディが頭から離れない「てまえみそのうた」。「発酵兄妹」のテーマソングともいえるこの歌を作曲したのが、音楽家・森ゆにさんだ。東京からご主人の郷里である甲府市へ、2013年に移住。共通の知人を通じ、洋子さんの兄・仁さんとは夫婦ぐるみで飲み友だちになった。



▶︎記事全文は本誌(vol.23 2017年6月号)に掲載
文:曽田夕紀子 写真:土屋誠


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